1) 連れ添いの死や家族の死に打ちひしがれて、家に籠もっていて呆けが進んだ。最近は、長くかわいがっていたペットの死がきっかけになることもあります。
2) 定年退職後、悠々自適の生活をしていて呆けが進んだ。特に、仕事人間、専門職で他に趣味や人付き合いのない人に多い傾向があります。
3) 長く住み慣れた土地を離れて、子供と知らぬ土地で同居し、近所つきあいもなく、孤独な生活状態におかれていて呆けが進んだ。
4) 長い入院治療で病気はよくなったが、退院してきたら呆けていた。
5) 独居生活で気ままに暮らしているうちに呆けが進んだ。
6) 世話やきと世話される関係にある高齢者夫婦では、世話されている方が呆けやすい。
7) アルコールに依存した生活。
などなど
その他にも色々と呆ける要因はありますが、共通しているのは、喪失感、孤独感、無気力、絶望感、悲哀、うつ気分などをもたらす生活環境要因と言えます。
高齢者認知症の発症メカニズムはまだ解明されていませんが、私は高齢者の認知症に深く関わる要因は「廃用」と考えています。頭を使わない、身体を動かさない、この使わない・動かないことから進む脳や身体の機能衰退が脳の活動・活性を進行性に低下させていき、次第に脳の器質的変化を進めていき、回復不能になるのではと推測しています。
高血圧や糖尿病、メタボリックシンドロームなどによる脳血管障害も認知機能障害の原因として重要ですが、性格とライフ・スタイル、生活環境なども高齢者の認知症発症に深く関わっていると思われます。
それでは、高齢者の認知症発症をどのようにして防いでいけるのかについては、次に説明しましょう。
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4月に行った脊椎手術は25件:腰椎20件、頚椎5件でした
4月の手術件数がやや少なめであったのは、1件の手術時間が3~4時間くらいかかる固定手術が7件であったこととMD手術でも時間を要するものがあったこと、さらに、 ゴールデンウィークが一日重なったためです。
脊椎手術25件
腰椎手術 20件
椎間板ヘルニア 6件:MD手術
内1件は超外側型椎間板ヘルニア
脊柱管狭窄症 7件:MD手術
変性すべり症 4件:最小侵襲椎体間固定TLIF+ペディクルスクリュー固定術
分離すべり症 2件;最小侵襲椎体間固定TLIF+ペディクルスクリュー固定
腰椎症性椎間孔狭窄 1例:最小侵襲椎体間固定TLIF+ペディクルスクリュー固定術
頚椎手術 5件
頚椎症性脊柱管狭窄 1例:前方固定術
頚椎症性椎間孔狭窄 1例:MD手術
脊柱管狭窄症 2例:拡大椎弓形成術
後縦靭帯骨化症 1例:拡大椎弓形成術
このほか、緊急の破裂脳動脈隆のクリッピング術1例あり。
脊椎手術の患者年齢は35歳~78歳(平均59歳)
年齢構成は30代3例、40代3例、50代3例、60代8例、70代8例
今月、80代はいなかったが、70代は全体の32%を占めた。
男性18例、女性12例
腰椎の最小侵襲固定術は7例で行い、術式はmini-TLIF+ペディクルスクリュー固定であった。手術時間は155~250分、平均約3時間、出血量は55~135ml、平均90mlであった。
70代の男性では、頚椎症性椎間孔狭窄と腰部脊柱管狭窄症を認めたため、頚椎と腰椎の同時手術を行った。頚椎では、MD法により椎間孔拡大術、腰椎ではMD法により2椎間で神経根・馬尾の除圧を行った。手術時間は3時間35分、出血量は65mlであった。翌日から歩行開始できた。
脊髄・神経障害や感染症などを含め手術合併症はなかった。
全例において術前症状の改善を認めたが、手術までに脊髄や馬尾・神経根などの神経
障害が進行していた患者では、退院時にはまだその障害がそれぞれの障害程度に応じ
て、残存していた。一般に脊髄・神経障害の改善には3~6ヵ月を要する。
1月から4月末までの脊椎手術の合計は112例で、腰椎93例、頚椎19例
最小侵襲固定術:23例
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「もの忘れ」専門外来は予約制を取っており、医療秘書(本院では医師事務作業補助者とは呼ばず、医療秘書と呼んでいます)が予約受付をしています。多くは、家族からの申し込みであり、たまには本人自身からのことがあります。家族からは、もの忘れ外来というと本人が拒否するので、本人には脳の検診ということで話を合わせて欲しいという希望が少なくありません。
受診の際には必ず一番良く本人の生活状況を知る家族に同伴してもらっています。家族からの情報が診断の鍵を握るからです。
先ず、最初に行うのが問診表へのチェックです。患者本人と家族にそれぞれチェックしてもらいます。次に問診表の内容を紹介します。
1) 同じ事を何度も言ったり聞いたりする。
2) 置き忘れ、しまい忘れが目立つ。
3) 蛇口やガス栓の締め忘れが目立つ。
4) なべ・やかんを焦がすことが多くなった。
5) 財布や物品を盗まれたという。
6) 薬の管理ができなくなった。(飲み忘れ、余計に飲むなど)
7) 一度に二つのことが覚えられなくなった(台所からソースと醤油を持ってこられないなど)
8) 物の名前がでてこなくなった(あれ、これ、それなどと言う)
9) 時間や場所の感覚が不確かになった。
10) 慣れているところで通に迷った。
11) テレビドラマの筋が理解できない。
12) 買い物でお釣りなどの計算に間違いが多くなった。
13)家電製品(テレビのリモコンなど)が使えなくなった。
14) 趣味や日課で出来なくなった。
15) 簡単な家事もできなくなった。
16) 気分が沈む、落ち込む、ふさぎ込むようになった。
17) 悲哀感、寂しさを訴えるようになった。
18) 自責感や死にたいなどと訴えるようになった。
19) 落ち着かず動き回る時とぼんやりしている時がある。
20) 気分が不安定で、急にそわそわしたり、イライラしたり、怒りっぽくなったりする。
21) 幻覚がある。
22) 夜間に不眠で、日中ぼんやりしている。
認知症の患者では、家族のチェック項目が多いのに対して、患者本人のチェック項目は少ないのが普通です。これは、病識欠如といって自分自身に起こっている病的現象に対する自覚の欠如を表しています。16)~20)は認知症や鬱病などでみられる気分障害をチェックする項目です。鬱病の患者とアルツハイマー型認知症の患者の鑑別が必要になることが少なくありません。なぜなら、鬱病の患者はもの忘れや認知機能の低下を示すことが多く、アルツハイマー型認知症の患者は早期には鬱症状を訴えることが少なくないからです。鬱病の患者では抗鬱剤の治療で症状は改善しますが、アルツハイマー型認知症の患者では認知症治療薬が効果を示します。
問診表チェックに続いて、長谷川式認知症診断テストを行います。このテストは簡易的なテストとして良く用いられていますので、詳細は割愛します。
最後にMRI検査によって、脳萎縮の分布や程度、脳梗塞や脳腫瘍、水頭症の有無などをチェックします。同時に海馬傍回の萎縮の有無や程度を評価するVSRADを行います。VSRADはアルツハイマー型認知症早期に出現する海馬傍回の萎縮の程度を半定量的に表示する方法です。
以上、アルツハイマー型認知症は問診と長谷川式テスト、MRI、VSRADなどの結果を総合して判定します。認知症判定で重要なことは、長谷川式テストでほぼ満点近くでも、MRIやVSRADでアルツハイマー型認知症の疑いの強い海馬傍回を含む脳萎縮の存在を認める場合には、半年後に再検して、認知機能のさらなる低下がないか再検査することです。その疑いを持たせる経過の場合にはできるだけ早く薬物治療を開始し、定期的に経過を追跡することが重要です。未だ、臨床的にはアルツハイマー型認知症初期を確実に診断する単一の検査法はありませんので、認知症の疑いのある患者では半年ごとに検査を繰り返すことが必要です。
次回は、認知症の発症にどんな要因が関係するかについて説明します。
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老年期に入ると多くの老人が記憶力の減退を自覚します。一時的に人の名前が出てこない、言いたい言葉がでてこない、話の一部を忘れてしまったなどは殆どの健康老人が経験することです。しかし、健康老人ではもの忘れが1年、2年という単位で目立って進行することはありません。一方、認知症患者では、加齢同様のもの忘れで発症しますが、それが進行性となり、発症後2,3年も経つと認知症患者として特徴ある症状を呈するようになります。家族から見ると、同じ事を何度も言う、聞くようになるが気づきの始まりであることが多いようです。
次に、認知症早期の患者のもの忘れに伴う生活上の変化・問題を列記します。
1)電話を受けていたのに伝え忘れが起こり、さらにその電話を受けたことさえ覚えていない。
2)その日の予定そのものを忘れてしまい、すっぽかす。
3)しまい忘れが目立つようになる。自分で置いたり、片付けたりした物の場所が分からなくなる。そのため、誰 かが取った、盗んだと思い込み一騒動が起こることがある。
4)薬の飲み忘れや飲み間違いが起こるようになる。
5)冷蔵庫の中に賞味期限や消費期限の切れた物が増えたり、同じ物を繰り返し買い込んだりする。
6)日や時間が曖昧になる。
7)言葉が出にくくなり、あれ、それなどが言葉の中に目立つようになる。
これらは一部に過ぎませんが、認知症早期に特徴的なもの忘れは、古い記憶は鮮明なのにもかかわらず、新しい記憶が強く障害されることです。すなわち、昨日・今日の記憶は曖昧になったり、忘れてしまったりするのですが、過去の記憶や習慣に問題は見られません。そのため、通常の時候のあいさつや会話の受け答えは殆ど問題なくこなし、分からないことはうまく取り繕いますので、他人は勿論、家族でも異常を感じ取ることは難しいのです。
認知症早期にもの忘れと共に重要な徴候は、意欲低下や不定愁訴が見られることです。それまで楽しんでいた趣味に興味が薄れたり、日課に手抜きが起こったり、他人と会うことを面倒がったり、頭が重い、すっきりしないなどの鬱的症状の訴えも見られやすくなります。患者によって強い不安感を持つ場合もあります。そのため、老年期鬱病と取り違えされ、抗鬱剤が投与されることがあります。
生活背景も重要です。早い人では60歳代に発症しますが、この時期は定年退職や子供が自立し老夫婦だけの生活になっていたり、連れ添いを亡くしていたり、生活に大きな変化が起こり易い時期にあたります。そのため、もの忘れや鬱的症状が発現しても、一時的な精神的な問題とされやすいのです。そのため認知症の早期発見が遅れることがあります。
家族と同居していても、子供達は仕事で夜しか戻らず、その間、年寄りが家庭に取り残される形になります。孤独感を味わいながら、何をするでもない生活を送る老人も多いようです。特に、住み慣れた土地を離れ、息子や娘夫婦の家庭に身を寄せている老人では殊更そのようです。毎日が仕事や子育てで忙しい家人が同居中の親の脳の中で認知症が進み始めていることにはなかなか気づけないのです。それが普通一般と言ってよいでしょう。 むしろ、仲の良い友達や同じ趣味・サークル仲間が友の異変に気づく場合が多いです。
認知症早期には徘徊を含めた行動異常は基本的にありません。前述したような症状が中心ですので、家族や周囲の人が先ず、気づいてやることが早期治療の第1歩になることを忘れないで下さい。
次回は私が行っている「もの忘れ」専門外来について説明しましょう。
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私はもっぱら脊椎外科医としてツイート、ブログを書いていますが、実は長い間、「ものわすれ」専門外来もやってきました。外科医が「もの忘れ」外来と驚かれ、違和感を覚える方が多いと思いますが、脳神経外科医は脳神経外科疾患との鑑別に認知症の知識が必要になります。認知症の専門は勿論、精神科医ですが、現在は神経内科にも認知症を専門にする医師がいます。地域では、脳神経外科医が必要に迫られて「もの忘れ」外来を行っている施設が多く見られます。
なぜ、「もの忘れ」外来が必要になったのでしょうか?
それは1999年11月にアリセプトというアルツハイマー型認知症の治療薬が薬価収載され使用できるようになったことにあります。
それまでは、アルツハイマー型認知症とわかっても治療薬がありませんでした。そのため、周辺症状といわれる徘徊などの異常行動が始まってからやっと診断されるというのが普通であり、早期診断という考えは一部の医師を除いてなかったのです。
ところが、アリセプトの登場は認知症の診療を一変させました。なぜなら、アリセプトは認知症早期に使うことで、その薬効を最大限に発揮できるからです。残念ですが、この薬は認知症を治す薬ではありません。認知症の進行を遅らせる薬としての位置づけです。ですから、早期であればあるほど長い効果が期待できるということになるのです。
では、アルツハイマー型認知症を早期に診断するにはどうしたらよいのでしょう。
昔から、「自分で呆けたと言っている間は大丈夫」と言われてきました。自立的生活を維持している状態という意味ではその通りです。しかし、アルツハイマー型認知症の初期には患者にその自覚があります。それは、「忘れっぽくなった。頭がすっきりしない。意欲がなくなった。集中できなくなった。仕事でミスが多くなった。」などが本人の自覚の中にあります。この段階では、家族にも周囲にも気づかれていないことが多いのが普通です。70歳を過ぎた人では、歳のせいと片づけられてしまいます。病院や診療所通いの患者が主治医にそのことを相談しても、「歳のせいですよ。自分で気づいているのなら心配ない」と言われていたのです。
私にも苦い経験があります。通院中の70歳代の女性患者が忘れっぽくなったことを訴えられたことがありました。毎回外来で見ているその人とは何ら変わりがなく思われ、お決まりの対応をしてしまいました。不安を取り除いてあげたいという思いもあったのですが。ところが、ある日、家族と一緒に受診され、他の医療機関でアルツハイマー型認知症の診断を受けたと知らされました。今でも忘れられない私には衝撃的な出来事でした。家族の説明を聞くと、家庭での生活には外来では想像のできない程の問題が起こっていたのです。家族は脳神経外科医である私が診ているのだからと安心していたようです。しかし、不安になり他の医療機関を受診されたのです。これはアリセプトが使えるようになった2年後くらいのことでした。私はひどく自分を恥じました。上面しかみない診療をしていたのです。家族に来ていただき、生活の状態を聞き出していれば、診断できたはずだからです。それがきっかけとなり、私の認知症に対する真剣な取り組みが始まりました。その後、アルツハイマー型認知症治療薬が幾つか新たに使えるようになりました。この分野は徐々にではありますが、着実に進歩を遂げています。
アルツハイマー型認知症を治す薬が未だない現状において、その進行を遅らせ、症状の改善を図る治療薬をできるだけ早期に患者に投与し、生活の質をより長く維持してもらう。これが現在のアルツハイマー型認知症に対する私ども医師の基本的なスタンスです。
認知症は高齢化社会ではありふれた病気として、いつか自分を含め家族の身にふりかかってくる恐れの多い病気として、さらに早期診断には家族や身の回りの人々の気づきが不可欠な病気として認識することが極めて重要です。
私のブログでは、これからは認知症の問題も取り上げていきます。認知症は患者本人には勿論ですが、それ以上に家族にとって大きな悩み、問題になります。家族の方々に少しでもお役に立てる内容になるよう頑張りたいと思います。
次回は、認知症の早期発見のために家族や周辺の方々はどんなことに注意が必要かを説明いたします。
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I)ぎっくり腰が起こり、腰痛の強い時期の治療
椎間板により裂けた靱帯周囲に炎症が起き、局所は痛みが起こり易い状態になっているので、腰を安静に保つことが必要です。炎症が痛みを起こしている時には、炎症を強くする原因になるものを避けることが重要です。具体的には次のようなものがあります。
1)腹筋・背筋を鍛えることが治療と勘違いし、歩行などの運動をすること
2)お風呂で身体を温めること。
3)アルコールで痛みを紛らわすこと。
4)整体、骨接ぎなどで行われる腰への手荒な治療
炎症が痛みの主因になっている時期には局所の安静が先ず必要です。さらに、炎症を取り除く効果のある薬剤が有効です。
1)局所の安静が何よりも重要です。動き回らず、痛みの楽な姿勢で横になることです。通常は、痛みの強い側を下にすると痛みが強くなるので、上にして、膝を曲げて休むことが痛みを軽減します。膝を伸ばして、真っ直ぐに寝ていると、痛みが起こり安くなります。姿勢で悪いのは中腰やあぐらをかくことです。長く坐位でいることも痛みを強くします。どうしても、動く必要のある人は腰に軟性コルセットを着用することが良いですが、コルセットで腰を締め付けると却って痛みが強くなる人もいますので、後者の場合には無理に着用することはありません。
2)炎症を取り除く薬として、通常は消炎鎮痛剤が用いられます。よく痛み止めが効かないと訴える方がいますが、そのような人は安静が保たれていないことが多いです。鎮痛剤で痛みが軽減すると、家事や仕事が気になり、どうしても動いてしまいます。それによって痛みがぶり返し、再び動くことが困難になります。炎症が治まる時期まで安静を保つことが理想です。通常は1週間を過ぎると炎症は軽減していきます。
3)腰ヘルニアの痛みには安静と消炎鎮痛剤が有効です。痛みの強い部位への湿布も効果あります。湿布の効果については以前にこのブログで書いていますので参照してください。消炎鎮痛剤は胃を荒らすことが多いので、注意が必要です。痛みのためのストレスも胃炎や胃潰瘍を起こしやすくしますので、慎重に使用することが必要です。消炎鎮痛剤の座薬を用いることも有用です。
II)坐骨神経痛などの下肢の痛みやしびれに対する治療
ヘルニアが神経根を圧迫・刺激すると臀部から大腿・下腿の痛みが強くなります。神経根の圧迫刺激で発現する坐骨神経痛についてはこのブログで説明済みです。神経根も圧迫刺激を受けると、急性期には神経根炎といって神経根に炎症が起こり、痛みが強くなります。激痛で身動きできない人も多く見られます。腰痛と同様に下肢の痛みも急性期には炎症が痛みを起こす主因ですので、安静が必要です。下肢の痛みを悪くする原因は前述した腰痛の場合と同じです。薬物治療の効果も同様です。炎症が治まっていくと、下肢の痛みも軽減します。
坐骨神経痛に対してはよく神経ブロックが行われます。根性痛に対しては有効な治療ですが、効果は一定せず、長引くと効果を失っていきます。
このように炎症が痛みの中心の時期には安静と消炎鎮痛剤、ブロック、湿布などで治療を行います。この時期に腰の牽引が行われる場合がありますが、炎症期には却って痛みを悪くしますので、控えるべきと思います。実際、牽引で痛みが悪くなったとの訴えが多く見られます。急性期の牽引療法は理論的にも誤りがあると思います。
安静と薬物治療で腰痛や下肢痛が順調に軽減し始めたなら、次第に生活上の負荷を腰にかけていき、痛みの再燃が起こらないか慎重に経過をみることが必要です。靱帯が破れた部位は弱くなっているので、腰に無理をかけると、靱帯が更に破れ、ヘルニアが悪化することがありますので、ぎっくり腰や下肢の痛みが起こってから2~3ヵ月は安静を心がけることが必要です。
2~3ヵ月を過ぎても下肢の痛みが治まらず、痛みの他にしびれが発現する場合や、歩行障害が改善しない場合には、手術を検討すべきです。
ヘルニア発症後、早期に手術すべき場合として次のものがあります
1)排尿障害や排便障害が発現した場合:肛門周囲や会陰部などの感覚麻痺を伴います。肛門括約筋の締まりが悪くなりますので、自分で肛門括約筋を締めてみて、締まりが弱い場合には急ぎ手術が必要です。排尿・排便障害は進むと改善が悪いので、早急な手術が必要とされています。
2)下肢の痛みが軽減してきたが、膝や足首の力が弱くなり、歩きにくくなった場合:神経根の麻痺が進んでいるために、痛みが軽減しているのであって、改善しているわけではなく、悪化している事を示しています。筋力低下状態を長く放置すると手術をしても改善不良になることが多いので注意が必要です。
腰椎椎間板ヘルニアは椎間板が靱帯を破ることで腰痛を出し、神経根や馬尾神経を圧迫障害して下肢に痛みやしびれ、冷感、排尿・排便障害を出す疾患です。ヘルニアによる神経の影響が軽い場合には自然治癒が大いに期待できます。軽い程度のヘルニアには種々の保存治療が効果を示しているように思われますが、自然治癒力で治っているというべきです。
しかし、神経への影響が強い場合には、どのような保存治療を行っても改善不良となります。症状が進行性に悪化しなくても、痛みやしびれと手の切れない慢性的な状態が続きます。長い時間をかけて悪化していく人たちも少なくありません。
このように神経への影響が強く残るヘルニアでは手術が必要になります。なぜなら、脱出した椎間板組織が神経を圧迫して症状が起こっているからです。手術で神経の圧迫を取ることが根治治療なのです。この際注意すべきは、ヘルニアによる神経への影響は必ずしもヘルニアの大きさで決まるわけではなく、ヘルニアと脊柱管の構造と神経の三者の関係で決まるものなのです。
手術適応の判断はこれらのことを熟知した医師でなければ、適切な判断は困難です。誤った判断が誤った治療法につながり、患者の治癒への期待は遠のくばかりになるのです。
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腰痛は誰もが経験することのある最もありふれた症状です。
普段、慣れない肉体労働や運動をやった後、普通は翌日に出現する筋肉や靱帯性の鈍痛もあれば、前に屈んで、物を持ち上げようとした時に急にズキッと腰が痛み、その後しばらく持続する椎間板性の鋭い痛みもあります。腰痛と一口に言っても、それぞれに特徴的な痛みの性質と出現の仕方があります。
筋肉や靭帯性の腰痛は通常は数日から1週間くらいの内に収まっていきます。しかし、椎間板性の腰痛は持続する傾向を示し、朝方痛みが特に強かったり、坐位や中腰を取ると痛みが増強したりと言った特徴があります。くしゃみや運動によっても増強します。
扱いに注意を要するのが椎間板性の腰痛であり、これには幾つかの段階があります。
第1段階:変性して脆くなった椎間板組織がこれを支えている靱帯を一部破った時の痛みです。俗にぎっくり腰と言われるものです。靱帯の破れる程度で腰痛の程度や持続する期間が異なります。安静にしていると、通常は自然に消失します。
第2段階:二度、三度、ぎっくり腰を繰り返すと、その都度、靱帯の破綻が進み、椎間板組織の突出程度が増します。靱帯には痛みを感じる神経が分布しているので、椎間板によって押し伸ばされる度合いが強くなる程、痛みが強くなります。椎間板が靱帯を破り、靱帯を引き延ばし、突出度が増すにつれて腰痛はとれにくくなり、慢性化する場合もあります。
第3段階:このように椎間板が靱帯を押し伸ばしている時には腰痛のみですが、靱帯の破綻が進み、椎間板組織が靱帯を裂いて靱帯の中に脱出し、靱帯が強く膨隆する場合や靱帯を貫通してしまう場合があります。この時に椎間板組織が脊柱管内に存在する神経根や馬尾神経を圧迫すると腰痛のみではなく、今度は、臀部や大腿、下腿などに痛みやしびれを感じるようになります。これが本格的な腰椎椎間板ヘルニアの始まりです。ヘルニアが神経に与える影響の度合いによって症状が異なります。激痛でトイレまで移動さえできない人もいます。
以上、ぎっくり腰で始まり、治った後再発があり、再発を繰り返している内に臀部や下肢への痛みやしびれが発現してくるというのが腰椎椎間板ヘルニアの一般的な進行の仕方です。
治療は腰椎椎間板ヘルニアの進行度や状態に基づいて行うことが必要になります。未だ、痛みのつらい患者に腹筋や背筋を鍛えなければだめだ。運動しなさいという誤った指導が行われていることに驚くことがある。
明日は椎間板ヘルニアの進行段階に応じた治療について紹介しましょう。
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患者は60代男性。半年前から右腰に違和感があり、徐々に右のふくらはぎまで痛みとしびれがひどくなってきた。朝はまだ良いが、昼から夜にかけて歩けなくなるほど痛みが強くなる。右足親指からその上のあたりまでしびれがある。50mくらい歩くと休まなければならない。ある病院を受診したら、脊柱管狭窄症による坐骨神経痛といわれ、薬を処方され服用しているが、一向に良くならないと私を受診された。
私の診断は腰部脊柱管狭窄症もあるが、症状の原因は右L5/S1の超外側型ヘルニアによる右L5神経根症であった。狭窄症は症状には無関係であった。L5神経根は坐骨神経を形成する神経のため坐骨神経痛を呈したのである。
よく話しを聞くと、最近は5~10mくらい歩くのがやっとであり、夜寝るときに痛みが強く、睡眠不足になっている。この半年で体重が6kgほど落ちている。腰を曲げていると痛みは軽減するが、伸ばすと痛みが増す。
自営業で妻と二人でお菓子屋を営んでいるが、立ち仕事が多く、壁に寄りかかりながら何とか仕事をしている状態であるが、休むわけにはいかず、この状態が続くと店をたたまなければならないといった深刻な内容であった。
手術は予定手術で組むと、半年待ちであったが、患者の生活を破綻させるわけにもいかず、できるだけ急いで手術を予定した。
手術は、腰の真ん中から50mm右側に18mmの切開を加え、直径18mm、長さ50mmのチューブ・レトレターと手術顕微鏡を用いて、超外側型ヘルニアを摘出した。手術時間は50分、出血量は5mlであった。術後、麻酔が覚める親指あたりのしびれ感が軽減しており、腰を伸ばして寝ていても痛みが増すことはなくなっていた。翌日から歩行もできるようになった。
早く仕事に復帰し、店を続けていけるようにとの職員達の気持ちが患者の生活を救った。
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腰椎椎間板ヘルニアの診断と手術にはいくつかの難しい問題がある。
一つ目は、MRIで診断されたヘルニアが患者の症状の原因であるとの確定が難しいことである。複数のヘルニアがMRIで偶然見つかることが多い。この場合、どのヘルニアが患者の症状の原因であるかを知ることは容易ではない。症状を伴わないヘルニアが存在することは少なくないからである。症状の原因ではないヘルニアを手術しても、当然のことながら症状は改善せず、手術は失敗に終わる。
二つ目は、ヘルニアは脊柱管内、椎間孔内、椎間孔外といくつかの部位に起こり得る。脊柱管内のヘルニアは診断しやすいが、椎間孔内や椎間孔外のヘルニアはよく見落とされる。特に椎間孔外の超外側型ヘルニアがそうである。私を受診される患者の中には他医で診断のつかなかった超外側型ヘルニアの患者が多い。手術を受けたが、症状が良くならなかったという患者の中にも超外側型が多い。
実は、このようにヘルニアは部位診断と症状の原因であることの診断がむずかしいのである。手術の対象に間違いがある場合には、当然のことながら手術で症状が改善することはない。すなわち、手術は失敗に終わるのである。
三つ目は、手術でヘルニアを摘出しても神経の圧迫がきちっと除去されていなければ神経の症状は改善しない。すなわち、手術の目的はヘルニアの摘出にあると思われがちであるが、実はヘルニアを摘出すれば十分というわけでないのである。すなわち、ヘルニアが摘出されても神経の圧迫がきちっと除去されていなければ症状は改善しないのである。たとえば、ヘルニアの一部が取り残され、それが神経を圧迫し続けている場合や、狭窄症にヘルニアが合併し、ヘルニアは摘出されたが、狭窄症が残っている場合には、神経の除圧が不十分となり、手術は失敗に終わるのである。
このように、ヘルニアの手術失敗の原因は色々ある。上記した以外にもある。そのために、ヘルニア手術が失敗に終わり、外科手術への信頼が向上しないのである。
私が、腰椎手術の成功は外科医の診断力と技術力と常々言うのはそのような理由からである。外科医の診断力と技術力が確かなら、ヘルニアは必ず治せるのである。
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最初に断りますが、私は保存治療自体が無効・不要という立場はとっていません。軽症の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、腰椎すべり症などは薬物治療やブロックなどの保存治療で治ることはないにしても、症状の改善を図れるからです。うまくいくと、症状が一旦消失することも多く見られます。しかし、再発を繰り返し、軽症から更に進んだ腰椎変性疾患になると保存治療が次第に効果を失って行きます。
たとえば、ぎっくり腰になり、保存治療を受けると痛みは1週間くらいで消失し、一見治ったかの印象を与えます。しかし、二度、三度とぎっくり腰を繰り返すと次第に保存治療の効果が悪くなります。かって、有効であった治療が効果を示さなくなるのです。ぎっくり腰から更に臀部や下肢の痛み・しびれに発展すると、保存治療の効果は更に失われていきます。これが保存治療の限界なのです。腰椎変性疾患は通常は加齢と共に進行性ですので、改善と悪化を繰り返しながら、次第に症状の悪化傾向を示します。繰り返しますが、今まで効果を示した薬物治療やその他の保存治療が病気の進行と共に次第に効果を失うのです。
重要なことはこの時期、すなわち保存治療が効果を示さず、症状が悪化し、生活の支障が大きくなり始めた時期こそ保存治療に見切りをつける時なのです。
腰への負担を軽減しながら、保存治療で何とか生活できる状態では治療が有効とは言えません。外科治療が進んでいなかった時代なら仕方ないことですが、今日では外科治療が進み、病気の根本を治しますので、高い治癒率が期待できるからです。
次に保存治療の弊害を三つあげると、
1) 一つ目は、神経機能障害を進めてしまうことがある。教科書には麻痺が進んだら手術治療を考慮すべきと記載されていますが、通常の外来では知覚障害の分布や程度、筋力低下の有無や程度などは余り検査されていないのが実情です。筋力が半分以下に低下していても、普通は患者自身が気づいていません。普通に歩いているように見えても筋力低下が明らかに存在することがあるのです。従って、神経機能障害の有無や程度をチェックしないで治療のみを行うことは適切な治療のあり方とは言えません。なぜなら、保存治療の末に下垂足と言って、足の先が垂れ下がり、持ち上げられない状態で受診することや、筋萎縮が進んでから受診してくる人が少なくないのです。これでは、治るものも治らなくなるのです。
2) 二つ目は、痛い腰や下肢をかばった生活をしている内に腰椎が次第に変形し、たとえば側彎変形などで腰椎病変が複雑になり、治療困難になっていくことがあります。70代や80代の方の腰椎は見るも無惨なものになっていることがあります。これは長期にわたる効果のない保存治療が生んだ悲劇といえます。
3) 三つ目は、無効な保存治療が長く続くことで、患者の精神的苦痛は次第に増大していきます。腰の病気を理解できない周囲の人たちの視線・言動が患者を苦しめます。次第に家庭においても居場所を失うような深刻な心理状態に陥る患者もいます。
このように無効な保存治療が漫然と長々繰り返されることにも多くの弊害があることを知って腰椎変性疾患の治療と向き合いましょう。
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